アミアン・ノートルダム大聖堂
パリ北駅から急行で1時間10分、ピカルディ地方の首都アミアンは意外に近い。ここにはシャルトル・ランスと並び、ヤンツェン以来「3大古典大聖堂」と呼ばれてるアミアン・ノートルダム大聖堂がたっている。『古典』という敬称は、本来『存在の建築(何も足さず何も引くことのできない完全なる完成美)』である古代ギリシャ神殿の尊称であり、『生成の建築(それぞれの時期のそれぞれの様式に従って、建て続けられる永遠なる未完成)』であるゴシックの聖堂に使用されるべきではないのだが、敢えてそう呼ばれていることに意味があるのである。その中でも、ゴシック聖堂の修復で名高いヴィオレ・ル・デュクによると、最も完成度が高いのがこのアミアンの大聖堂だという。
バラ窓と王のギャラリー
アミアンの大聖堂は1220年着工。通常教会堂は内陣部から着工されるのだが、この大聖堂は西から東へ工事が進められたという。つまり西正面から工事が始まったということであり、そのためかシャルトルよりは新しく、ランスよりは遅れた構成と感じられる。バラ窓は全体に比してまだ小さく少々稚拙に見える(但し、その様式は後期ゴシックのフランボワイヤンである)。
タンパンとヴシュールの彫像郡。『最後の審判』が描かれている。この聖堂の扉口は、エブラズマン(抱き壁)が深く切り込まれており、ファサードに深い陰影を与えている(最上部の写真参照)。
アミアン大聖堂は3廊式プラン。主廊のヴォールトの高さは42.5m、ボーヴェの48mに次ぐ高さを誇る。それに比して幅は14mに過ぎず、垂直性の強調が際立っている。ちなみに、他の古典聖堂は、ランスのヴォールトの高さが38m・幅13m、シャルトルは高さ37m・幅16mとなっている。
立面は3層式。ゴシックの立面は、初期は大アーチ・トリビューン・トリフォリウム・クリアストーリーと続く四層だが、次第にトリビューンを省く3層へと変容して行く。アミアンの大アーチは異常に高く、クリアストーリーとトリフォリウムを合わせた高さとほぼ同じになっている。ほっそりとしたピエリ・キャントネ(大柱に小円柱を添えた複合柱)が、より洗練された垂直性の高い空間を創出している。
四分ヴォールトを見上げる。残念なことにアミアンは殆どのステンドグラスが失われている。ランスも然り、ステンドグラスの織り成す光の空間を体験したいならば、シャルトルが1番だ。
交差廊の見上げ。トリフォリウムがステンドグラス化されているのがわかる。身廊部分はトリフォリウムがまだ閉じて暗いまま(2枚上の写真)になっている。このトリフォリウムのガラス化を、古典性からの逸脱、爛熟期への第一歩と見る向きもある。
交差廊から北袖廊を見る。
アミアンのもう一つの見所はこのラビリントである。実際には椅子もあるし地上から見るので、このような広がりを感じることはできない。絵葉書や説明用の写真を見て想像力を働かせるしかない。
ゴシックの聖堂に行った折、このような迷路模様があるのに気づいたことがある方も多いかと思う。このラビリントは、エルサレムへの巡礼路を描いたものであり信者が跪いて歩いたとする説やクレタ島クノッソス宮殿地下にミノタウロスを閉じ込める為に造られた『迷宮』に因んで工匠を讃えるためのものとする説等がある。
ラビリントの中心にある銘版。この聖堂の建築に関わった4人の工匠の名前が記されているという。
後陣にある嘆きの天使像。私には天使版考える人に見えた。ファサードの王のギャラリーやタンパン、扉口まわり台座の12ヶ月の労働カレンダーなど、アミアンには美しい彫刻がたくさんある。
前にも書いたように、アミアンの大聖堂は殆どのステンドグラスを失っている。そのため後陣は素っ気無いほど明るい。ゴシックとは何かという問いには様々な回答があるが、その中の一つに『光の空間』という答えがある。この『光の空間』というのは明るければ良いというのではなく、色ガラスを通した宝石のように光る壁、『神としての光』に満ちた空間のことなのである。アミアンで透明なガラスから入る自然光(つまり神秘性のない)に満ちた堂内を見ていると、ゴシックの創造者シュジェの『光輝く壁』への固執がとても重要であることに嫌でも気づかせられる。だからと言って、この大聖堂がつまらいというのでは勿論ない。ここでは、ヴィオレ・ル・デュクの褒め讃える、ゴシック建築としての構成のおもしろさを堪能して帰ろう。
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