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2008年7月 6日 (日)

国会議事堂(ブダペスト)

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ドナウ川の水辺に佇む繊細なゴシックの躯体に上品なドーム、初めてこの建物の写真を見たとき随分優美な建築があるのだと驚いた。ゴシックにしては高さの強調が弱く水平に広がるその姿が珍しいと思うと同時に、何の用途を持った建物なのか図りかねた。宮殿には見えない、勿論教会でもない。美術館や博物館の類でもなさそうだ。国会議事堂と聞いて成る程なと思ったものの、ナニモノにも見えない、 何らしくもないというこの建物の印象は変わらなかった。

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国会議事堂は当然ながら案内つきでしか入れないので、長い列に並ぶことになる。今回の旅行の主たる目的がこの国会議事堂見学だったから我慢せざるをえないが、1時間半くらい待っただろうか。

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豪華なシャンなシャンデリアが続く

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まずはこの豪華な階段室に圧倒される。柱頭の装飾や尖塔アーチ、柱頭から天井へ伸びるリブ等要所要所にふんだんに金が使われ、天井にはクラシックなフレスコ画、リブの交差する辺りには軽やかなグロテスク模様が描かれている。

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ゴシック、ルネサンス、バロックと様々な様式が見られる。アールヌーヴォー的な柱の草花文様はハンガリーの民族性を感じさせる。この不思議な印象の建物は、分類するならネオゴシックということになるが、様々な建築様式を取り入れた折衷主義が特徴的である。設計者はシュティンドル・イムレ。驚きなのは、完成したのが20世紀に入ってからということだ。建国千年祭での落成を目指していたものの激しい工事の遅れにより、20年の歳月の後にやっと完成。1904年のことだった。工事に時間が掛かったとは言え、着工したのは1884年頃だろうから、ネオゴシックにしては随分遅れた登場である。この国会議事堂建設には、ハンガリーがウィーンの支配から独立した国会を初めて持つことが可能になったという背景があり、国の威信を賭けた建物であり、民族の誇りを感じさせるものでなくてはならなかったのだ。建設にあたっては、イギリスを手本としたという。ロンドンのテムズ河畔にある国会議事堂もゴシックで建てられているが、ゴシックという様式はナショナリズムと結びつきやすい性質があるのかもしれない。

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星型のドームの見上げは、何となくエキゾチック。幾何学的なデザインはイスラームの影響を感じるが、その下のランセット窓はゴシックのイメージ。

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上の写真のランセット窓の下のゴシック的エレベーション。最下部を大アーチが支え、その上にトリフォリウム、クリアストーリーと続く三層式立面の上にドームが載っている。

ちなにみこのドームの下に、国宝中の国宝歴代の王が戴冠式に使った王冠、杓、玉が恭しく展示されている。

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これが有名な王冠。ハンガリーの国章にも使われているため、至る所でお目にかかることになる。上の十字架が傾いでいるところがポイントなのだが、これはローマから初代国王イシュトバーンへと届けられる長旅の最中で十字架が傾いてしまったため。もともと十字架を知らないイシュトヴァーン王は喜んでそのまま被ってしまったのだそうだ。何とも可愛らしいエピソードだが、伝統をそのままに国章に描かれる王冠は今でも傾いだ十字架を頂いている。

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国宝のあるホールを抜けると遂に議場に辿り着く。ここもまばゆいばかりの金で装飾されている。国会議事堂というよりオペラハウスのようである。建築当時の首相ティサは倹約家として知られているが、国会議事堂建設については「倹約は一切無用」と言い切ったと言う。この建設に使われた金の総量なんと40kg。彼の並ならぬ意思に感じ入るばかりである。

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議場の天井部とその立面。繊細なトレーサリーと持ち繰り部分の装飾が美しい。

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持ち送り部分の装飾は、入場チケットにもなっている。ドームや金のバロック的装飾部ではなく、これををチケットにするあたりデザインした人の美的センスの高さが感じられる・・・。

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議員用の談話室の柱には、様々な職業の市民の像で飾られている。上院用下院用(今ではハンガリーは一院制だが、当時は二院制だった)の二つの部屋で200種類の職業の人々が描かれているのだとか。実は絨毯の色もここはブルーに変わっている(入口の豪華な階段等には深紅の絨毯が引かれている)。青は忠誠を表わす色。議員は普通の赤い血ではなく青い血をもって職務を遂行しなければならないという意味なのだそうだ。どこかの国の議員にも見習ってもらいたものである。

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街側からの眺め。ドームはバットレスとフライングバットレスで支えられている。

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漁夫の砦から眺める国会議事堂

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マルギット橋からの眺め。この角度からも風情があっていい。ちなみに、最もよく建物が見えるのはバッチャーニ広場(1番上の写真)。

実は、冒頭の文章で「ナニモノでもないし、何らしくもない」と書いたときに、その比喩として安直に「無国籍」という言葉を使おうとしてすぐに不適当だと気づいてやめた。こうやって見ていると、この建物は無国籍どころか、確固たるバックグラウンドを感じる。しかも様々な・・・。ゴシックやルネサンス、バロック、そしてこれまでハンガリーが積み重ねてきた諸所の様式。無国籍というよりは多国籍。トルコ・オーストリア・ソ連といった他国からの干渉を受けながら遂に独立政権を勝ち取ったハンガリーの歴史の重みを感じる建築だと思った。

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