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2008年8月23日 (土)

応用美術館(工芸美術館)

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直行便で旅をすることが殆どない私は、ヨーロッパの都市へ着くのは大抵夜である。ホテルへ着くまでの道程ライトアップされた街を見ながら、ここは何処かなーとか、この建築には絶対行こうとか考える時間はとても楽しい。ただ運ばれるままに窓の外を眺めていると次々に魅力的な建物が現れて驚かされる。中には写真等でよく知っているものもあるが、こんなときに見るその建築は街の中によく溶け込んで気負いのない素のままの姿を見せているような気がする。正確にはその建築を目指して今か今かと歩いているときとは、こちらの心持が違うだけなのだが・・・。ブダペストに着いた夜、ライトアップのオレンジと夜の闇に色を消されたレヒネル・エデンの応用美術館を見かけた。フランスルネサンス風のシルエットを持つその建物は予想に反してとても美しく見えた。写真で見たときは、くどいデザインとクセのある配色に少々疑問を感じたのだが、こうやって見るとなかなか魅力的である。なんだか急に興味が湧いてきた。

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応用美術館は1896年、ハンガリーアール・ヌーヴォーを代表するレヒネル・エデンとパールトシュ・ジュラの共同設計により建てられた。レヒネルのブダペスト公共建築三部作の最初の作品で、マジャールの民族様式と近代建築の融合を目指した野心作である。歴史的様式の全体的なシルエットよりも、ジョルナイタイルの配色や要所要所に描かれる民族的な模様、ドームの釣鐘型や手摺の鶏モチーフ等奇抜なデザインが目立ち、建設当初は「ジプシー王の館」と揶揄されたとか。

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屋根のジョルナイタイルと草花模様

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おどろおどろしい入口のデザイン

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入口のジョルナイタイルの天井。マジャールの伝統的な草花文様が描かれている。

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内部は打って変わって鉄とガラスの近代的空間。外観からは想像できない。真っ白に塗られた内部にも外観とのギャップを感じる。当初はカラフルに彩色されていたが奇抜なデザインが物議を醸し、竣工後まもなく入口付近以外は白く塗りこめられてしまったのだそうだ。

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側廊の多弁形アーチは、ムガール様式。ハンガリー民俗学の父J・フスカに共鳴していたレヒネルの「ハンガリー民族芸術の起源はペルシャ・インドにあり」というフスカの学説へのオマージュと言われている。ムガール様式というのは簡単に言うとインド・イスラーム様式のことである。インドにおけるコロニアル様式とも言える。結局マジャール民族の起源はイスラームにあるのか?マーチャーシュ教会で一つの結論にたどり着いたと思ったら、なんだか堂々巡りだ。

ペルシャ・インドというフスカのこの言葉。地域的な意味合いとしか考えていなかった。今でこそイランの隣はインドではないが、アフガニスタンやパキスタンは昔はペルシャ領(~スタンとはペルシャ語で土地のことを意味している)。漠然とその辺りの地域のことかと思ったいたが、よく考えたらそんな意味であってそんな意味ではない。ペルシャ・インドが指すところは、ピンポイントでティムール朝だったのだ。モンゴル帝国の継承政権の一つで、中央アジアからイランにかけての地域を支配したイスラーム王朝。16世紀初頭にシャイバーン朝に中央アジアが奪われ、王族の一人バーブルがインドに入り打ち立てたのがこの王朝だ。ペルシャとかインドとかの土地をさしているのではなく、このモンゴロイド系の王朝がマジャールの起源だと言っているのだ。世界史に疎い私にはちょっとわかりにくかったかも・・・。

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階段から見上げる天井の様子

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後にレヒネルは地学研究所で天井や柱がぐずぐずと溶けていくような流動的な内部空間を作り出すが、この多弁形アーチがヒントになったのではなかろうか。

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ステンドグラスとバルコニーのうねる手摺。曲線が重なり合う有機的なデザインはレヒネルの真骨頂。

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ここは応用美術館ということで、私には結構楽しかった。実用的なものだから百貨店に来たような感じ?

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中国製のインク壷。キレイ、欲しい・・・。

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ちなみに、この美術館はお金を払えば写真撮影OK。ハンガリーではそれが普通のようだった。

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コメント


こんにちは。初カキコします

すごく幻想的な建物で気に入りました。
内と外のギャップは確かにすごいですね…。
カラフルで奇抜だった頃の内部の様子も
知りたいですが、今のままでも十分不思議な空間で行ってみたいです。
特にぐにゃぐにゃの手摺が…。

投稿: 川 | 2008年8月26日 (火) 07時29分

コメント有難うございます!
カラフルだった頃の内装の様子、知りたいですよねぇ。かなり徹底して真っ白にされていたので、よっぽどスゴかったのかなぁと私なんかは必要以上に興味が湧いたりします(笑)それと吹き抜けのバルコニー手摺は本当に圧巻でした。こういう建築があるんだなぁと、とても感動したのを覚えています。
外観の写真を大分削ったので、レヒネルらしいイボイボの柱とか個性的な部分が半分も紹介できてないことが残念ですが、少しでも気に入って頂けていたらとても嬉しいです。

投稿: ひなた | 2008年8月27日 (水) 22時20分

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