郵便貯金局
レヒネル・エデンのブダペスト公共建築三部作最後の作品、郵便貯金局。この作品をもってして中世主義を離脱して変幻自在のレヒネル流アールヌ-ヴォーが完成したと言われる。
白い平らな壁面を付柱によって垂直に分割、波打つように水平に伸びるレンガの蛇腹でリズムをつけている。
この蜂達は実は付柱の頂きにある巣に向かって登っている。蜂は貯金の象徴なのだそうだ。
扉口にもマジャールの伝統的な草花模様。見学は中の扉の前まで。
レヒネル・エデンは時々「東のガウディ」と呼ばれることがある。同時代人であり、しかもレヒネルの方が少し年上で活躍しはじめた時期も少し早いことを考えるとこの呼び名は失礼なんじゃないかと思ったりもするのだが、そもそもそう呼ばれる理由はなんなのだろうと思った。「日本のガウディ」と呼ばれる梵寿鋼のときはまさしくそうだなあと思ったが、レヒネルについては全く思わなかった。
つらつらと考えるとレヒネルとガウディの共通点は案外多い。1.二人とも自由なゴシックスタイルからキャリアをスタートしている。2.ヴィオレ・ル・デュクの信奉者である。3.民族意識が強い。4.イスラームの影響が見受けられる。5.タイルという素材の存在感。6.自然をモチーフにしたものが多い。思いつくままに挙げてみるとこんな感じだろうか。ヴィオレ・ル・デュクがアール・ヌーヴォーの理論的裏づけの一端を担っていると言われていることを考えるとレヒネルとガウディが二人とも影響を受けていて当然。それに民族主義とイスラームの影響は意味合いとして被る部分もあるので一つの項目にすべきかもしれない。内容的にはまだまだ整理が必要であるが、やはり比較したくなる二人ではあるのだと思った。
とは言うものの作品を見たときに受けるイメージはかなり違う。それは、マジョリカタイルとジョルナイタイルの色彩の違いかもしれないし、マグレブイスラームとインドイスラームの違いかもしれない。自然モチーフのデフォルメした表現と具象的表現の違いかもしれない。しかしながら、何よりも違う印象を受けるのは、その精神性においてではないかと思う。合理的な精神のガウディと感受性豊かなレヒネル。天井と壁が領域を超えて溶け合う幻想的な空間、胎内回帰願望と言われる浮遊感のある不思議な空間。私はやはり、レヒネルがガウディに似ているとはあまり思わない。
レヒネルの細部へのこだわりは費用を増大させ、これ以降のブダペストの公共建築では予算を制限する法律ができた。そのためだろう、この郵便貯金局以降、レヒネルはブダペストの公共建築のコンペで締め出され、主役の座をライバルの一派に明け渡すこととなった。
| 固定リンク
「公共施設」カテゴリの記事
- 市民会館(スメタナ・ホール)(2009.04.26)
- パリ市庁舎(2009.02.13)
- 郵便貯金局(2008.08.28)
- 国会議事堂(ブダペスト)(2008.07.06)
「ハンガリー」カテゴリの記事
- トーネット・ハウス(2008.09.09)
- ドレクスレル宮殿(カフェ ドレクスレル)(2008.08.31)
- 郵便貯金局(2008.08.28)
- 応用美術館(工芸美術館)(2008.08.23)
- マーチャーシュ教会(2008.08.10)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント