クトナーホラのバルバラ大聖堂はとてもインパクトの強い外観をしている。ゴシックの大聖堂と言えば多かれ少なかれ外観はパターン化されているものだが、この大聖堂はあまりそれに当てはまっていない。何と言っても塔らしい塔を持っていないのがユニークだ。ヴィオレ・ル・デュクが推奨する7塔どころかフランスのようなファサードの双塔もなく、イギリスのような光塔もない。その代わりにテントのようにツンと尖がった屋根が3つ並んでいる。その黒褐色の屋根の周囲をフライングバットレスがぐるりと囲んでいる様子はかなり壮観だ。
バルバラ大聖堂はホール型教会堂で翼廊が省略されている。そのため西正面以外の三方を途切れることなくフライングバットレスが囲む。さらに塔がないためフライングバットレスのの高さが強調されることになり、他のゴシックではあまり見ることのない独特のスタイルを作り出している。
薔薇窓も彫刻もない淡白なファサード。サイドのフライングバットレスも剥き出しの素朴なデザイン。
この大聖堂の建設は1388年から始まった。当初のプランはヴィート大聖堂やカレル橋の設計で有名なペトル・パルレーシュのもので、その後息子のヤン・パルレーシュが引き継いだ。ひとまずの完成を見たのは1558年、完成までには幾人もの著名な建築家が携わったという。
内部で特に目を引くのは凝った作りのヴォールトである。大輪の花が咲いているかのような華やかなヴォールトはプラハ城のヴラスチラフホールによく似ている。後で調べてみると同じ建築家の手によるもので、ベネディクト・リートというドイツ人だそうだ。ぺヴスナーの建築辞典では「建築家兼ヴォールト技術者」と紹介されている。
ヴォールトの花弁の中には紋章や人物が描かれているが、現在はところどころに残っているだけでかなりの部分は消えてしまっている。目を凝らして見てみたが、あまりのリブの複雑さに力の流れを追うことができなかった。一本の柱からは、中央の花芯に向かって交差するように2本、隣の両柱に向かって2本、その間を埋めるように斜めの角度にさらに2本づつ、計8本のリブが伸びている。普通ゴシックのリブヴォールトと言えば支柱からスラリと伸びる姿が見えるものだが、この大聖堂ではその立ち上がり部分が非常にコンパクトに押さえてある。また、立ち上がり部分は網の目状になっており、リブの作る影が薄い布を何層にも重ねたような錯覚を生む。まるで支柱が支えているのは重い石の天井ではなく、天幕をはっただけであるかのような浮遊感が生まれる。そういえばブラスチラフホールのヴォールトもふわっとした軽さがあった。リートという人のヴォールト仮構はなんだか不思議だ。
クトナーホラの大聖堂はなかなか広く、他にも見所は沢山ある。プラハからも比較的近いので、是非とも訪れておきたいところである。
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